佐藤佳音(17)と佐藤侑音(17)姉妹は、長崎県西彼杵町の西彼杵高等学校バレー部を支える地域の声に「恩返しするしかない」と語った。2025年4月、東京の明治大学中野高等学校へ進学する彼らは、春高バレーで全国制覇を果たし、地元に恩を返す決意を固めている。その背後には、人口8,217人の小さな町が、チーム全員の活動を支え続けてきた物語がある。
地域の全額支援で成り立ったチーム
西彼杵高バレー部は、2022年まで全国的な存在ではなかった。姉妹が転入する前、同校は10年間、全国大会に出場したことがない。しかし、2022年4月、彼らと指導者である山田哲也監督が西彼杵に移り、状況は一変した。練習環境は劣悪だった。ネットの高さがずれていたり、フロアに穴が開いていたりしたという。それでも、地元住民は諦めなかった。
2023-2024年度、西彼杵バレーボール支援協会がチームの運営費全額を負担した。その額は285万円。ユニフォーム、移動費、トレーナーの派遣、大会参加費――すべてが町民の寄付と地元企業の協力で賄われた。町役場に事務所を置くこの協会は、町民一人ひとりが「私たちのチーム」と思えるように、毎月の寄付金を募った。中には、年金暮らしの老人が毎月5,000円を継続して寄付する人もいた。
全国大会へ突き進む姉妹の実力
2024年11月15日、長崎県大会の決勝戦。西彼杵高は聖和高等学校と激突した。第3セット、侑音はレフトから連続得点を重ね、佳音はライトの強力スパイクで相手ブロックを振り切った。25対20でセットを制し、勝利を手にした。その試合後、両姉妹は記者会見でこう語った。
「地域のみなさんの応援の支えがあってこその私たちです。この恩をバレーで返すため、春から東京でさらに鍛え、絶対に日本一になります」
2024年度の県大会では、佳音が1試合平均18.3点、侑音が15.7点を記録。全国トップレベルの得点力だ。日本バレー協会の分析によると、彼らの「止まらないバレー談義」――練習後も、食堂で、バスで、寝る前も、バレーの話ばかりする――が、技術の飛躍を支えたという。
東京進学の意味と挑戦
明治大学中野高校は、全国のトッププレーヤーを輩出する名門校だ。2023年には、女子日本代表候補の3人が在籍していた。姉妹はそこで、より高度な戦術、フィジカルトレーニング、メンタルケアを学ぶ。しかし、それは単なる進学ではない。西彼杵の町が、全国に「地方の高校でも、全国制覇できる」ことを示すための「挑戦」なのだ。
「私たちが東京に行けば、九州の子どもたちが『あそこに行けば、自分もできる』って思ってくれるかもしれない」。佳音はそう話す。日本バレー協会は、彼らの東京進学が、九州地区の全国大会出場率を12%引き上げる可能性があると予測している。
町の未来を支える「記念基金」
姉妹の活躍は、町の政策にも影響を及ぼした。2025年2月10日、西彼杵町長の田中浩は、町議会で「佐藤姉妹記念バレー育成基金」の創設を発表した。資金は5,000万円。今後10年間、地元の中学生や高校生のバレー部に無償でトレーニング機器や海外遠征費を提供する。
「彼らがいなくても、バレーは続く。それが、私たちの本当の勝利です」
町民の92%(7,554人中)が、姉妹の存在をきっかけに、子どもたちのスポーツ参加を促していると答えた。町の小学校では、バレー部の新設を検討する動きが広がっている。
次のステージへ
姉妹は、2025年3月20日から27日まで、順天堂大学練習施設で開催される全国高校女子バレー連盟の強化合宿に参加する。その後、4月1日に東京へ移住。そして、1月4日から12日まで開催される全国高等学校バレー選手権大会(春高バレー)で、長崎県のチームが1998年以来、27年ぶりに全国優勝を果たすという夢に向かう。
「もし、私たちが勝てたら、西彼杵の子供たちが、『自分たちの町から、日本一になれる』って信じるようになる。それこそが、私たちがここに来た意味です」
Frequently Asked Questions
佐藤姉妹はなぜ西彼杵高校に転入したのですか?
姉妹は、指導者である山田哲也監督が西彼杵高校に移籍したことに伴い、2022年4月に転校しました。当時、姉妹は別の学校でバレーをしていたが、監督の指導方針に共感し、地元の環境の厳しさを乗り越えてチームを支える決断をしました。その結果、西彼杵高は全国大会出場を果たすまでに成長しました。
地域の支援は具体的にどのような形でしたか?
西彼杵バレーボール支援協会が2023-2024年度に285万円を投じ、ユニフォーム、遠征費、トレーナーの雇用、練習用器具の購入を全額賄いました。町民の寄付、地元商店の協賛、町の補助金が組み合わさった形で、チームの運営を支えました。特に、年金生活者の継続的な寄付が話題となりました。
明治大学中野高校とはどんな学校ですか?
明治大学中野高校は、女子バレーの名門校で、過去に日本代表やVリーグ選手を多数輩出しています。2023年には、女子日本代表候補3名が在籍。全国トップレベルの練習環境と戦術指導が特徴で、姉妹はここでより高度な技術と精神力の習得を目指しています。
春高バレーで勝つことはなぜ重要なのですか?
長崎県のチームが春高バレーで優勝したのは1998年以来、27年間ありません。姉妹が勝てば、九州の地方校が全国で戦える可能性を示す象徴になります。また、全国の地方自治体に「地域支援でチームを育てる」モデルを広める効果も期待されています。
記念基金5,000万円はどのように使われるのですか?
基金は10年間、西彼杵町内の中学・高校バレー部に無償で提供されます。主に、ネットやボール、トレーニング機器、遠征費用、外部コーチの招請に使われます。特に、女子チームの新設支援に重点を置き、姉妹の成功を次世代に引き継ぐ仕組みです。
姉妹の影響で、地元のスポーツ参加率はどれくらい上がりましたか?
2025年2月の町の調査で、町民の92%(7,554人中)が「姉妹の活躍をきっかけに、子どもたちのスポーツへの関心が高まった」と回答しました。小学校でのバレー部新設の要望が12校から上がったほか、中学生のバレー部入部希望者も前年比で40%増加しています。
コメントを書く